【卒業コラム その02】
農業を通じて知る、社会と哲学

くたくたになって動けないよ、なんて言っていた日々も過ぎてしまえばあっという間。

僕は農業大学校を卒業する。

山梨に、甲府に、「農業をしたい」と考えて移住してくる、一年前の僕みたいなこれから農業を目指す人達の参考にしてもらうために書いておいたほうがいいから、書く。

 

 

農大での栽培実習について。

農大の圃場(圃場とは畑のこと)は大きく分けて慣行圃場と有機圃場がある。

同じ作物をそれぞれの圃場で栽培して、生育の違い、病害虫の出方、かかるコスト、販売単価などメリット、デメリットを比較して学ぶことができる。

 

栽培作業は種を撒く前からスタートする。

 

肥料撒きます

耕耘します

マルチ張ります

支柱立てます

 

文字にするとあっさりと簡単に感じられてしまうのが残念。

非常に残念なので栽培作業を説明するからお付き合を!

 

まず、どの肥料をどのくらい撒くか机で計算する。

(遠い昔の学生時代に習った数学は引き出しの奥底に閉まってあるので取り出すのが大変)

計算したら肥料は手で撒く。

種をまく時、風が強いと撒いてるのか飛ばしてるのか吸ってるのか、わからないくらい種が飛び散る。正確に測ったのがバカらしくなる。

 

耕耘はトラクターでスイスイ、な、訳はなく。

蛇行運転を繰り返したり、タイヤを土にめり込ませて大穴作ったり、ローラーででっかい山を作ったり。余裕にトラクターを乗りこなしている農家のおじいさんたちがどれほどすごいか思い知らされた。

 

マルチ張りの機械は、機嫌を損ねると張ったそばからマルチがヒラヒラと風で剥がされるので機械の後を追ってクワで土かぶせて手張りする、これじゃ始めから手で張るのと変わらない…。

 

支柱立てはまず支柱が土に入らない、固くて。誰かハンマー持ってきてーっとなって穴開けてそこに支柱入れるのだが、無理やり入ると支柱曲がる。

 

そんなこんなで悪戦苦闘しながらもなんとか仕上がった畑を見て、「俺たちいい仕事した」って気持ちよく汗を拭う、ってまだ種も撒いてないから(泣)

 

マルチ張る機械で仕上げた畝。

ちゃんと訓練すればここまで真っ直ぐ鏡のように綺麗にできる。(張ったのは僕のではない、人には得手不得手がありまして)

トンボが水面と間違えて卵を産み付けに飛来するからすごい!

 

そんなこんなを経て、種まきor苗を定植してやっと栽培スタート。

そこからは驚きの生長に目を見張る。いやこれ、雑草の話です。

雑草を手で刈る→間に合わなくなる→刈払機使う→間に合わなくなる→乗用モアで走りまくる→ちょっとやそっとの雑草は見ないことにするになる。こんな感じで雑草と付き合うようになる。

作物の生育をよく観察しながら適切な農薬散布だったり誘引、芽かきの管理作業だったりを先生の指導の元に行い収穫につなげていく。

 

収穫後はパッキング作業。トマトを箱に隙間なく並べていくのが至難の業。

丁寧に並べて市場に出荷すると驚くほど安値だった。

学校の出荷物ではあるがこれが新米農家の現実に当てはまると言われ動揺してしまった。

 

作物を採れたからって、どんなに手間暇かけたからって、それがその分のお金になるわけではない。

市場出荷に関してはそれなりの品質のものを継続して出荷することで信用が生まれ徐々に高値の取引になることを知った日であった。だから、農業は努力と汗と信用のたまものなんだと知る。

 

農大ではハウス建築もカリキュラムに含まれている。建築手順や雪害対策を習いながら組み立てていく。

ハウスを所有することは新規就農者にはハードルが高く、少しでも経費を抑えるために自分たちで建築することもあるだろうし、補修する場面も出てくるからこの実習は役に立つだろう。(写真奥の方で腰抜かしているのが僕です)

 

カリキュラムで忘れてはならないのが農家研修だ!

自分が栽培を希望する作物に合わせて先進農家・法人が設定され研修を受けるものでリアルな現場を経験できる。

ベテラン農家と一緒に作業し、農業を生計に、農業で食べて生きていくとはどういう事かを肌で感じられる。夢見る農業も生活が伴っていかなくては続けられないのだから、そのための先人の努力を教えてもらえる機会は貴重だ。

 

長年の試行錯誤の末に作り上げた栽培方法に触れ、利益をどう上げるか、お金の話に耳を傾ける。農業と天気、農業と自然、密接でその中で進めていくのだから、自然の脅威にどう対峙してきたか、それこそ、心折れるような途方に暮れることもあった事など、数々の苦労話を聞く。

「それでもやっぱり農業っていいよ」と聞いた時に、吹く風がこれまで以上に気持ち良く感じた。

 

農業という側面だけでなく人生そのものの哲学を教えてくれる農家さん。歯を食いしばり、我慢強く生きてこられた姿が何よりもお手本になる。この御縁を大切に後押ししてもらえるよう頑張っていこう。いつしか僕も人に与えられる農家になりたい、そう思わせてくれたことに感謝しかない。ありがとうございます。

 

 

農大は失敗しても会社ではないので咎められることはない。むしろ失敗して糧にする機会を与えられると考えることができる。夏の暑い時期にほうれん草や葉物など栽培して販売した経験がその後、これからの農業ライフにヒントを与えてくれるはずだし、そうなっている。

教科書には載っていない自由な発想を促す先生だったり、チャレンジ精神を生み出す仲間だったり、やる気をサポートしてくれる農大だったり、全てに感化されながら最高の環境で研修は進んでいった。