山File#1:富士山

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<登山データ>

登山日:2012年7月22日(日)~23日(月)

天気:1日目:曇り、2日目:晴れのち曇り

標高差:1,396m

 

富士山に初めて登ったのは、今から5年前の2012年の7月でした。

そもそも山登りを始めたきっかけは父で、父はガツガツと日本アルプス等に登るほどではありませんが、八ヶ岳に登ったり、何度か富士山に登頂したりしていました。そんな父の誘いで、年に1、2回ほどのペースで箱根などの低山を登るようになってしばらくしたあと、富士山に行こうという話になりました。

10年ほど前、箱根の金時山にて。山ガールブームにはカケラも乗っかっていません

10年ほど前、箱根の金時山にて。山ガールブームにはカケラも乗っかっていません

 

当時の私は山の経験こそ少ないものの、ランニングなどをしていて体力にはそこそこ自信があったので、即OKしました。正直そこまで富士山に興味はなかったのですが、チベットにいつか行きたいと思っていたので、高山病の傾向があるか調べたかったのが一番の動機です。日本一の山に登らせていただくというのに、我ながら大変不純です。

どういう意味か解説すると、チベットは標高が5,000mほどあり、もし高山病になったら帰国するまで苦しむことになります。日本で高山病の気があるかチェックできるのは、標高3,776mある富士山だけです。(注:なりやすい人は3,000m程度でも発症します)

 

高山病は、その名のとおり高所に行くことで、空気が薄くなることから発症する症状です。主に頭痛や吐き気、めまいなどを引き起こします。高山病になるかどうかは体質に大きく関わると言われていて、もしなってしまった場合、治療の方法は下山する以外ありません。心配なら予防策として酸素を持っていくのもありです。

富士山は標高が日本一高い山。高山病で苦しんだ話もよく聞きますのでご注意を

富士山は標高が日本一高い山。高山病で苦しんだ話もよく聞きますのでご注意を

 

父はこれまで何度か登った経験から、以下のようなプランを打ち出しました。

 

1日目:遅めの時間に富士宮口5合目からスタート、6合目の山小屋に宿泊

2日目:夜中のうちに山小屋を出発、午前中に山頂に着き、そのまま下山

※登る日は平日、山開き直後の梅雨明け前後で、最盛シーズンを外した時期

 

先に言うと、これは素晴らしいプランでした。登山口が静岡県側なので、甲府コラムなのに怒られそうですが。笑

 

夏の富士山は、とにかく凄い数の人が押し寄せて、シャレにならない混雑具合に見舞われます。まだ世界遺産に認定されていないこの頃でも、混雑は混雑です。(今のほうがもっとひどいでしょうけど)

富士山の一番人気は山梨県側の吉田ルート。まずそれを回避して、最短コースの富士宮ルートに設定。

また、ほとんどの人は山頂でのご来光目的のため、1日目は8合目か9合目あたりに宿泊します。2日目暗いうちに登りだし、山頂で日の出を見るわけです。そのため、上のほうの山小屋は1枚の布団に3人で寝るような惨劇に耐えなければいけません。

それを避けるため敢えて下のほうの6合目で泊まることにしました。ご来光は拝めませんが、私も父もご来光に興味がなかったため問題なし。

登る時期も山開き直後の梅雨が明けきる前後にして、なるべく人の少ない時期を狙いました。

富士宮口五合目に到着。初めて見る雲海に写真撮りまくり

富士宮口五合目に到着。初めて見る雲海に写真撮りまくり

 

1日目。のんびり電車やバスを乗り継いで、夕方近く富士宮口五合目に到着します。急速に高所に上がってきているので、30分ほど五合目に滞在して高度慣れします。高山に慣れていない人は高山病予防のためにも、なるべく行うことをおすすめします。

 

30分も歩かず6合目にある山小屋へ。ここで今夜は宿泊します。上は雨だったようで、下山してくる人たちがみんなレインウェアを着てぐったりした顔をしていたのが印象的でした。

まずは六合目までのんびり向かいます

まずは六合目までのんびり向かいます

 

あっという間に本日の宿、雲海荘に到着。六合目にはもう一軒、宝永山荘もあります

あっという間に本日の宿、雲海荘に到着。六合目にはもう一軒、宝永山荘もあります

 

夕食は富士山の山小屋の定番、具の少ないカレー。それでも8合目や9合目に比べると具が多いとは父の弁。なんであれ、山で食べるごはんは地上の5割増で美味しい。

目論見どおり、6合目で泊まる人は少ないらしく小屋はガラガラ。2人ずつ仕切られた半個室のようなスペースでしっかり休むことができました。

富士山の山小屋なのにゆったり過ごせたのも六合目ならでは

富士山の山小屋なのにゆったり過ごせたのも六合目ならでは

 

翌朝、暗いうちにヘッドランプをつけて歩き出します。途中で朝日が昇ります。前日とはうって変わって、空は快晴、眼下に広がる雲海のスケールが凄まじい。

新七合目、元祖七合目、八合目、九合目、九合五勺と登っていきます。なんで七合目がふたつあるのか、そして九合五勺って要るのか。いろいろ疑問ですが黙っておきます。

九十九折の登山道、雲海、その向こうに海。富士山ならではの眺めです

九十九折の登山道、雲海、その向こうに海。富士山ならではの眺めです

 

○合目ごとに小屋がありトイレにも行けて、数珠つなぎというほどではないですが早朝にも関わらずたくさんの人が登っている。こんな山は富士山だけでしょう。

あと景色がずっとおんなじ。ひたすらロープの張られた火山性のザレ場(細かい石と砂に覆われたザラザラして滑りやすい登山道)を九十九折に登っていくだけ…。登山好きの人間に、富士山好きがほぼ皆無な理由です。え、私?せっかく山梨に住んだので、もっと人が少なければトレーニングでまた登ってもいいかな程度です。でもマイカー規制が面倒くさいし、何より自分のペースで歩けなさそうなので、残念ながら実現の目処はたっていません。

浅間大社奥宮や山頂郵便局のある富士宮口側山頂。疲れ果て寝ている人がたくさんいるのはよくある光景

浅間大社奥宮や山頂郵便局のある富士宮口側山頂。疲れ果て寝ている人がたくさんいるのはよくある光景

 

父に合わせたゆっくりめなペースで歩いたおかげか、息切れひとつせず山頂に到着。高山病もないどころか、空気が薄い感覚すらわかりません。高所に強いという発見ができたのが、この日一番の収穫です。

ちなみに父も1ミリも高山病にならないので、きっと遺伝なんだと思います。

 

浅間大社奥宮にお参りしたり、山頂郵便局でハガキを出したり(ここでしか押してもらえない消印がつきます)、登頂証明書をもらったりして堪能したら、最高所、剣ヶ峰を目指します。

富士山登頂の定番、剣ヶ峰の記念撮影は行列しているので順番に

富士山登頂の定番、剣ヶ峰の記念撮影は行列しているので順番に

 

馬ノ背と呼ばれる、急でズルズル滑る斜面を登り剣ヶ峰に無事立ったあとは、お鉢めぐりです。

富士山はその形からもわかるように、山頂には広大な火口があり、その周りをまわる「お鉢めぐり」だけで1時間半ほど要します。その途中に最高所の剣ヶ峰があり、そこに立たないと本当に富士山の山頂を踏んだことにはなりません。山梨県側の吉田口から登頂すると、剣ヶ峰はほぼ反対側にあるため、必然的にお鉢めぐりをすることになるので所要時間には要注意です。

広大な火口のまわりを巡る、お鉢めぐりは是非しておきたいところ

広大な火口のまわりを巡る、お鉢めぐりは是非しておきたいところ

 

道中でショッキングな光景を見ました。ロープが張られて立入禁止になった向こう、斜面の下のほうに、山のようなゴミが堆積していました。空き缶やペットボトル、カップ麺の容器など。

翌年、世界遺産認定の際、富士山の汚さが話題になりましたが、あのニュースを見てもこの光景を思い出して、ただ納得しただけでした。

 

山ではいくつかルールがあります。ゴミは持ち帰る、花や植物をとらない(とっていいのは写真だけ)、登山道の外には踏み入らない、などなど。

特にゴミを持ち帰るというのは、山以前の一般常識だと思います。それすらできない人がたくさん登っている。近年外国人が増えてマナーがどうのと言われていますが、それより前の頃です。日本人だろうと何人だろうとマナーのない人はたくさんいるということです。恥ずかしいかぎりです。

 遠くてわかりづらいですが、奥に堆積しているのは全部、ゴミ


遠くてわかりづらいですが、奥に堆積しているのは全部、ゴミ

 

お鉢めぐりが終わったら、再び富士宮ルートで下山します。下るうち天気が怪しくなってきましたが、ギリギリ雨には振られず降りてくることができました。

下山中の最悪の思い出は、足の裏が激痛に襲われたことです。登りは楽々追い抜いていた父に余裕で追い越され、痛みでヒーヒー死にそうになりながら、やっとのこと五合目に着いたときは心底ほっとしました。何が悪かったのか。靴です。

このとき履いていたのは、スニーカーみたいなヘナチョコ靴

このとき履いていたのは、スニーカーみたいなヘナチョコ靴

 

この頃、まだ登山道具に関して何の知識もなく、いつもTシャツにスニーカーで登っていました。ザックは父のお下がりの、20年以上前のボロボロのものでした。

富士山に登るのにそれじゃイカンということで、靴、ザック、レインウェアのいわゆる三種の神器と、ゲイター(足元につける泥除けみたいなもの)、ヘッドランプ(暗いうちから歩くなら必須)、ハイドレーション(歩きながら水が飲めるチューブつき水筒。超便利)、それに多少のウェアを買い足しました。ストックだけは持っていて、今はほとんど見かけないシングルの安物です。ステッキみたいなやつですね。でもないよりは全然ましです。

ここで最大のミスは、ケチってスニーカー風のハイキングシューズを買ってしまったことです。

 

登山靴にもいろいろありますが、ハードな山向けになるほど底が厚く、頑丈なものになります。比例してお値段も張るのが悩ましい。山道具屋さんに行って「富士山に行きます」と言えば最適なものを勧めてくれるはずなのですが、そのとき私は何と言って買ったのか…覚えていません。

とにかくヘニャチョコのスニーカーみたいな靴で長時間歩いたため、足の裏に無数の石ころの衝撃が伝わり続け、とうとう酷使の限界リミット超えで悲鳴を上げたわけです。あれは今思い出しても地獄だったので、皆さんもそれなりに底が頑丈な靴で登ってください。ビーサンで登っている外国人とかいますが、きっと足の裏が鉄でできているんだと思います。

 

後年、ちゃんとしたトレッキングシューズを買いにお店に行って、こういう靴(富士山に登った靴)を持っているんですけど、と言ったら、これは山登り用じゃなくてせいぜい尾瀬の木道ぐらいしか歩けません、と言われて愕然としました。今はお散歩専用になっています。

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ザラザラの岩混じりの斜面がずっと続く富士山では、せめてちゃんとした靴を

 

富士山に登ろう!という人で、その後も山登りを続ける人は一握り。続けるならいいですが、一度しか行かない登山に高い山道具を買い揃えるのって抵抗があります。だけど自分の足だけが頼りの登山では、靴は何より大事なもの。登るときは最低限、それなりの装備を揃えて臨んだほうが、より快適で安全な富士山を楽しめることは間違いありません。どうしても金銭的に厳しかったら、今はレンタルも豊富なので利用するのも手だと思います。

 

私の場合、結局このとき揃えた装備で今も使っているのはザックだけです。ハイドレーションも一応現役ですが、最近水漏れするのでそろそろ買い替え時期かも。それ以外の道具は、全部あっという間に壊れて使えなくなりました。安物買いの銭失い、という言葉を身をもって感じます。とはいえ、今使っている山道具にかかった金額を合計すると…恐ろしい数値が出そうなので、考えたくありません。

山に登るのは(例外を除いて)タダですが、ハマると他の趣味と同じようにそれなりにお金が出て行きます。だって安全には替えられないですからね!なんでもそうですが、ハマるときは、それなりのお覚悟を。笑

最近の装備一例。テント泊だとこれだけの荷物が必要になります…(ザックや靴、水筒、食料は写っていません)

最近の装備一例。テント泊だとこれだけの荷物が必要になります…(ザックや靴、水筒、食料は写っていません)