編み物から学ぶ
「手芸屋さん」や「手作り」と聞くと、なんとなくダサくてクオリティもイマイチなイメージ。だったら好みのものを買った方がいいよね、と思っていました。
それでも、こどもが産まれてくるんだ、と思うと、何か作ってみたいという思いもよらない感情が芽生え、待ち遠しい気持ちを紛らわせるかのように、大きなお腹で布おむつやよだれかけをチクチクと縫ったものでした。今思えば、作りたいというよりも、何か手を動かしていたかっただけかも、と思わなくはないですが。
さて、私が抱いていた「手芸屋さん」のイメージを一変させたのはitokaraさんでした。
前回のコラムでちらっと紹介させていただきましたが、itokaraさんは甲府にある手芸アトリエ兼ショップです。
白を基調としたコンパクトな空間は、手芸好きなら誰でも知っている(手芸好きではない私でも知っていた)有名な京都の手芸系の専門店AVRILの色とりどりの糸、シンプルなリネンやコットンの生地、編み物や手芸関係の書籍、手芸道具など、選びぬかれた最低限のものがスッキリと並べられています。また、大きな作業テーブルがあり、そこで編み物、縫い物、織物ができるようになっています。
「え、今の手芸屋さんってこんなにオシャレなの?」と思わず声に出してしまいました。
置いてある本を手に取ると、とっても可愛い色味のベビー用ニットカーディガン。もう絶対これを作りたいという情熱スイッチがオンになり、「これ作りたいんですけど、どれくらいでできますかね?頑張れば一週間くらいでできますか?」と聞いた時、店主のゆかさんがなんとなく口を濁したのを今でも覚えています。そんなわけないですよね…。
itokaraさんには「編み物部」という編み物教室的なものがあるというので、参加して編み始めることとなりました。
それが昨年の初夏。半袖にサンダル姿、スリングに息子を抱っこして訪れた日のことは今でもハッキリ思い浮かびます。
これから編めば冬には間に合うだろう、という算段も空しく、こんなにかかってしまいました。
先日、ようやく完成。
私がitokaraさんに行こうと思ったのは、
- 仕事をはじめたらできなくなりそうなこと、今だからこそできることをとにかくたくさん経験したかったから
- ブサイクでもいいからなにかひとつ、「こんなの作ってくれたんだ」と将来思ってもらえるような大作を子どものためにつくってみたかったから
- 保育園や幼稚園に入ると必然的に裁縫を強いられることが多いと耳にしたので、時間のあるうちに手を慣らしておかなければと思ったから
- 「編み物部」、「縫い物部」、「織物部」などがあり、編み物部は1回2時間500円という気軽にチャレンジしやすい時間と金額設定だったから
- エネルギーが有り余っていたのでとにかく手や頭を動かしたかったから
“赤ちゃんがいると自分のことは何もできない”、というイメージがありましたが、まだ寝てばかりの新生児の頃はむしろ色々と活動するチャンス。「歩き出すと手も目も離せないよ!」と脅しを受けたりするので、今こそがチャンスとばかりに始めたのでした。
編み物に挑戦してみて気付きました。
編み物って不思議なもので、自分の性格そのものと向き合うようなところがあって、最初の大事なところを確認せず丁寧にやらずにとりあえず突き進んでしまうところ、なんかおかしいと気づいても、今引き返したら余計混乱する!とやり続けてしまうところ、やけに細かく丁寧なのに、よくわからなくなると大胆な動きをするところ、などなど。
過去の自分の仕事ぶりとオーバーラップして落ち込むし、もう見たくない&治したい自分の嫌な部分のオンパレードと向き合う耐え難い闘いだったりして、それはもう、苦行を終えたあとの僧侶の気分です。
それでも、編むこと自体は楽しいというところも、完成してみると自分でもどうやって作ったのかわからないくらい意外とちゃんと形になっているところも、笑えるくらい自分の性格や仕事ぶりを表していて。
単に手芸をするために通いはじめたものの、いろんな世代や環境の人たちとおしゃべりしながら手を動かすことが楽しくて(時にしゃべりすぎて手が止まることも多々あり、「これじゃおしゃべり部だねー」なんて話したり)、産後を楽しく過ごせたのもitokaraさんとそこに集う強力ウーマン達のおかげだったんだなぁ、こういう場所があって本当によかったと心底感謝しています。
参加者には同じくらいの月齢の子を持つお母さんもいれば、高校生や中学生の大きなお子さんを持つお母さんに独身の方、経歴や出身も様々。子連れで行ったら迷惑かなとの心配でもありましたが、私と同じように抱っこ紐やおんぶ紐でこどもを連れて編み物をしている方もいましたし、こどもが泣くと誰かしらが抱っこしたりあやしたりしてくださって編み物に専念させてくれたり、たくさん甘えさせてもらいました。
「主婦ってかっこいいー!」と思ったのも、イベント終わりに惜しげも無くテキパキ撤収・解散する姉御達を見てのこと。
私も強くたくましく生きていきたい、日常の愚痴や疲れを笑いに変えてしまうこの強さとエネルギーとユーモアを持ち続けていたい、そう思いました。
itokaraさんの編み物部だけではとても終わらなかった私は、息子と夫が寝静まった夜中、過去の仕事のこと、将来のこと、夫婦のこと、これからの仕事のこと、お金のこと、たくさんの考え事をしながら編み続けました。このカーディガンにはたくさんの思い出や感情や手汗が染み込んでいます。
ところでitokaraさんの場合、いわゆる「編み物教室」ではなく「編み物部」であるのは、部活感覚で自主的にやろうという発想からこう呼ばれているそうです。そのため、手取り足取り先生が教えてくれるわけではなく、みんなでテーブルを囲んで各々が編みたいものを自分のペースで編みます。わからない箇所や不安な箇所は先生に尋ね、教えてもらいますが、決して手は貸してくれません。最初は「え!編み物教室なのにちゃんと教えてくれないなんて。私は教えてほしくてここに来たのに。」と裏切られたような気持ちになり落ち込みましたが、後々「編み物部」のコンセプトを知り納得。そしてこの一見するとゆるいようで実はスパルタなスタイルこそが、根気強く編み物を続けるために必要なことなのかもしれない、と思ったり。
1回2時間で500円ポッキリ♡と言うのも主婦にはありがたい設定です(縫い物部、織物部はそれぞれ料金設定が異なります。itokaraさんのwebsiteでご確認ください!)。
あからさまな子育て関係の施設に行くのが苦手な人もいますよね。私はどちらかというとそういうタイプです。同じくらいの月齢の子を持つ母親は目の前の子育てに近視眼的になり、なんとなくピリピリしたり警戒したりしている様子も見受けられたりします。でも、ここに集う人々はなんとなくのんびり。それにだいぶ先を進む先輩ママの余裕や何気ない一言が、近視眼的な視線に客観性をもたらしてくれたりします。
くだらないおしゃべりの中に真実がある、女のおしゃべりの醍醐味ですね。
次は自分のために何か作ってみたいな。
*
itokara
手芸アトリエ
http://itokara.com
甲府市丸の内2-9-8
アキ山ビル1F
055−232−2069
mail@itokara.com