就農体験ホームステイ2017開催レポート
【第二回】

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就農体験ホームステイとは、農業に興味のある移住希望者が、甲府市内の農家さん宅にお世話になり、就農体験を通じて農家さんと親睦を深め、地域との繋がりを作ることで、甲府への移住・定住のイメージを具体的にもってもらうことを目的とした体験ツアーです。

 

昨年に初開催し、実際の移住者も輩出して好評だった本企画は今年も開催され、農業に興味があり参加した3組の移住希望者のホームステイ内容をレポートとして公開します。

 

就農体験ホームステイ2017開催レポート第二回「食の視点で農に関わる。」

 

二組目は、東京生まれ東京育ちであり、東京の一般企業に勤務する東海さん(仮名)です。共働きのご両親を支えるために幼少期より自立し、自分の道を自分で切り開いてきた東海さんは、人に料理を作ることが大好きで、人の喜ぶことに魅力を感じる献身的な人柄。幼少期より食に携わる仕事をしたいと思いながらも将来を見据え、見聞を広げるために業種の違う未知の仕事に精を出す努力家です。

そんな彼女は人のために自分が作る料理が何でできているのか。使う食材はどう人の手を伝って自分のところまで届いているのか。そんな漠然とした疑問から一次産業に興味を持ち、次第に仕事とは別の意識で食につながる農について考えるようになったそうです。

仕事先の紹介で今回のホームステイを知った東海さんは今まで甲府についての知識が全くありませんでした。それでも「検索癖」のある彼女は、ホームステイを知ったことで甲府を調べるようになり、甲府の農業に興味を持って今回参加したそうです。

本人はまだ移住や就農までの意識を持っていませんが、生まれ育ってきた東京以外の生活が自分にどんな変化をもたらすのか、また農作物を身近で知ることでどう感じるのかに期待を込めて甲府に来ることになりました。

 

そして今回、東海さんを受け入れるのが農家の菅沼さん。昨年度より本企画に協力して頂き、今回も東海さんを受け入れて頂きました。

同じように自分の道を自分で切り開いてきた菅沼さんと東海さん。食と農というとても近い存在を共有する二人がホームステイでどう変化したのか。1泊2日の就農体験ホームステイレポートをご覧ください。

 

ホームステイ1日目

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甲府に訪れた東海さんと迎え入れた菅沼さんは早速、夕飯の買い出しに向かいます。ホームステイは事前に参加者の希望を伺い、農家さんと調整して進めるのですが、今回の東海さんの希望はご飯を作ること。

今までは受け入れ農家さんが用意していた料理を参加者が作るという新しいホームステイが始まります。

 

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買い物を済ませた二人は菅沼さんの家に戻って早速、料理を開始します。

今まで忙しく受け入れていた菅沼さんは部屋で大人しく待っていることができず、東海さんの横でおもむろに山梨の名物「ほうとう」を作り始めました。

 

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出来上がった料理の数々。ほうとう以外全て東海さんの手料理です。

参加前より菅沼さんから聞いていた旬の野菜リストを元に、当日までに考えた料理は生春巻きにシーザーサラダ、白菜の味噌和えと色んな国の料理を作ります。

 

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極めつけは菅沼さんの作った野菜を使ったアヒージョ。これを菅沼さんが育てた小麦で作ったパン「スガパン」で頂きます。アヒージョとスガパンの旨味が絶妙で、みんな笑顔で食事をしていました。

 

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見てください。菅沼さんの満面の笑みを。

 

東海さんの料理がどれだけ美味しかったか。この笑顔ですぐにわかっちゃいます。

というより、今回のホームステイで撮影した菅沼さんは終始笑顔で、その理由は誰が見ても明白ですが、本人は至って真面目にホームステイの受け入れをしています。

 

美味しい料理が会話を弾ませ、気づけば夜も更けていましたが、菅沼さん家の夜はまだまだ眠らない。東海さんの食に対する考え方と菅沼さんの農に関する考え方をお互いに話し合いながら、今の地域課題、社会課題など、若者世代が直面している問題を時に笑顔で、時にぶつかりながら話し合っていきます。

 

「自分の周りにも課題意識のある人たちはたくさんいて、交流会や意見交換会にも参加することがあるけれど、やはり都内で聞く話にはリアリティがないと感じることも多い。例えば、現役農家さんがいない農業イベントがあったりして、それ自体に疑問を感じることがある。それに比べて菅沼さんが移住者として、新規就農者として歩んできた生の声は納得がいくことも多くとても刺激を受けます。」と東海さん。

「どうしても、めんどくさい事は後回しにしたくなるのが人間だと思います。それを責めたところで何の解決にもならない。重要なのはどんなにめんどくさくても、自分に起こっている課題や問題には立ち向かっていかないといけない。それには根気と体力が必要で、一人ではとても険しい道のり。東海さんのように農業ではない視点で農業を見てくれる人が周りにいると、客観的に自分を確認できるのでありがたい。」と菅沼さん。

 

お酒も入ったのか2人とも熱く語っていました。

 

 

ホームステイ2日目

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朝起きた東海さんは早々に台所に立ち、菅沼さんの朝ごはんを作ります。

今日の朝食は昨日の食材の残りを使った肉巻きおにぎりとお味噌汁。若者にとって朝起きて料理が出てくることの嬉しいこと。

 

今日一日を元気に過ごせると確信しました。

 

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本日の農作業は夏に収穫したナスの枯れ木を燃す作業です。この時期はどこの農家さんでも行う作業ですが、火を使い、煙が風に流れるため、非常にデリケートな農作業にあります。

先ずは消防に作業報告をして、もしもの時に備えます。そして近隣に迷惑のかからない程度にナスの枯れ木を燃していきます。

初心者からすると、燃え盛る火を見て心配になりますが、そこは慣れている菅沼さん。車からアルミ箔に包まれた物体を何本も取り出して東海さんに渡します。

 

「これサツマイモです。この火の中に入れて焼き芋にして食べましょう。これも農家の醍醐味です。」とニコニコ顔の菅沼さん。

サツマイモはちょっとだけ生焼けでしたけど、とても良い経験ができました。

 

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燃したナスの枯れ木に入念に水をかけて、火が消えたことを確認したら、いよいよホームステイも終わりに向かいます。

「料理をする東海さんにお土産を。」と菅沼さんは東海さんを知人のホテル用に小さく育てているハーブ野菜の畑に連れていき、手袋とハサミを渡して収穫方法を伝え「好きなだけ持って行ってください。」と袋を渡しました。

 

「東京ではこんなに元気なハーブは売っていない。それにこんなに沢山買う事なんて先ずない。」と驚きを隠せないでいると「農業に関わる醍醐味は野菜と直球で向き合えることだと思います。普段はスーパーや市場で厳選されているものがここではダイレクトに手に入る。自分たちで作っているので当然の話ですけど、より自然な形で食と関われるのが魅力だと思います。」と菅沼さんは答えます。

 

こうして東海さんのホームステイは終了しました。

 

その後の東海さんは今も東京で仕事をしつつ、甲府に関わる仲間と知り合って定期的に菅沼さんの家に訪れています。

 

「就農という選択はまだ見えていないですが、援農という形で携わっていきたい。また料理に関わらず、教育という観点で食に関わりたい。可能であれば地域と関われる仕事に就きたいと思います。そして自分なりの農業の一助になれればと考えています。」と後日、東海さんは答えました。

 

移住者であり、新規就農者であり、若者である菅沼さんと知り合って、また一人の若者が農業から甲府に興味を持ち、関わるようになりました。

 

こうして、甲府に関わる仲間が増えていくことを願っています。

 

それにしても今回の菅沼さんはずっと笑顔です。

 

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